大人の涙

大人の涙

「孤独の愛し方のちょっとしたマニュアルになれば、と思っています」と、マカロニえんぴつのはっとり(Vo/G)は、アルバム『大人の涙』についてApple Musicに語る。泣き顔のイラストを使用したジャケットが印象的な本作は、孤独について歌う楽曲が多く並ぶ。「ただ、孤独を嘆いた歌は無いんです」と、はっとりは言う。「だんだん世の中のコロナの状況が落ち着いてきて、人と触れ合う機会も増えてきましたが、なんとなくみんなの気持ちが少し急いでいるような気がして。もう少しゆっくり自分の中の悲しみを見つめたり、誰かと優しさや寂しさを分け合ったりする時間があった方がいいんじゃないかなと思うんです。そこでこのアルバムが、自分の孤独を愛するきっかけになればと思って作りました」 バスに揺られながら人生に思いを巡らす「悲しみはバスに乗って」、“あくせく働いて”生きる大人たちに“泣いてもいいんだぜ”と語りかける「たましいの居場所」、大切な人を失った悲しみを切々と歌う「ありあまる日々」。マカロニえんぴつの歌は、淡々とつながっていく日々の中にある。「僕らの音楽はみんなの生活の中に自然と、それとなくいてほしい」と、はっとりは言う。「生活を支えるBGMとして、聴くと少し強くなれたり、もっと優しくなれたりするものでありたい。その思いが今どんどん強くなっています」 アルバムタイトルは「だれもわるくない」の歌詞から取った。「涙にもいろいろあって、自分の痛みだけで流す涙や、自分の寂しさだけを訴えて流す涙はまだ稚拙なのではないかと思う。僕が考える『大人の涙』とは、人が負った痛みや傷に共鳴して、『分かるよ、その気持ち』と言って一緒に流す涙。そんな歌を書きたいんです」。そう語るはっとりに、以下、いくつかの楽曲を解説してもらおう。 悲しみはバスに乗って バスに乗る人たちは窓の外に流れる景色を見つめながら何を思っているんだろうと、ふと思って書きました。バスの中ではみんな一緒に横に揺れ、停留所ごとに人が減っていって終着点に向かう。そこに愁いを感じます。この歌の主人公はハッピーエンドに向かうのか、報われない方に進むのか、そんなのは分からないのが人生だと伝えたくて長めのフェードアウトにしました。ちなみに僕は普段まったくバスに乗らないので、たまに乗るとドキドキします。 ペパーミント 午前帯の情報番組のテーマソングとして、明るい曲調にしてほしいという要望を受けて作りました。作曲はギターのよっちゃん(田辺 由明)。彼はちょうど12弦ギターを手に入れたばかりだったので、それを使ったらやはりビートルズ感が出ました。歌詞には「偽スマイリー」とか「心がしななきゃそれだけでいいよ」といった、グサッとくるような言葉も入れています。これは言葉尻を捕らえて、文脈を読まずに批判するような昨今の風潮へのアンチテーゼでもあります。例えば「しなない」という言葉は、生きようとするときに出てくるものなんです。だから僕は暗い言葉をマイナス面だけでは捉えないし、もっと言葉の可能性や度量みたいなものをどんどん試したいと思っています。 愛の波 テレビドラマの主題歌として書きました。8ビートで始まり、サビではテンポを変えずにビートを広く取っています。最初は全編ミディアムテンポでいこうと思ったんですけど、ドラマの主人公の生き急ぐ性格や、まくしたてるような口調を表現するために、前半は8ビートで軽快さを出しました。そしてサビでは、本当は寂しい自分がいる事や、過去に未練がある事を表現したくて、スローに聴こえる手法を取りました。 嵐の番い鳥 これはアルバムでしかできない曲(笑)。悪ふざけと言われたらそれまでですが、思い切り遊んでみました。一緒に歌ってくれたのはレーベルの後輩で、ヤユヨというバンドのボーカル、リコちゃん。最後のやりとりはアドリブです。 Frozen My Love これまでやっていないジャンルをやろうということで、US西海岸のメロディックハードコアに挑戦しました。本当はもう少しかっこよく、歌詞も英語っぽく聴こえるようにするつもりだったけど、どうやらメンバーたちはもう少しおもしろ系を期待しているのではないかと勝手な使命感を持ちまして(笑)、歌録りの前日に変えました。家庭内不和をテーマに、冷蔵庫を仲介役に置き、落語っぽい掛け合いで歌っています。 だれもわるくない 作曲はベースの高野 賢也です。歌詞を書く時は自分の心の中にある邪悪な部分を全部浄化して、クリーンなものだけを歌の中に閉じ込めたいというモードになっていました。そこで生まれたのが、「こぼれた『生きたい』だけで咲いた花」とか「きみのその痛みに、ボクも覚えがあるんだ」というメッセージだった。このアルバムの中でも特に優しい歌詞ができたなと思って、アルバムタイトルはこの歌詞の中からピックアップしました。

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